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千葉地方裁判所 昭和45年(行ウ)6号 判決 1975年3月17日

千葉県夷隅郡大原町高谷八九九番地

原告

池田包吉

右訴訟代理人弁護士

磯部保

子安良平

同復代理人弁護士

渡辺真次

同県茂原市高師八七〇番地

被告

茂原税務署長

豊住文雄

右指定代理人

日野照夫

藤田里見

加納

神沢明

岩崎章次

下元敏晴

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一、当事者双方の求めた裁判

(原告)

一、被告が原告に対し、昭和四四年六月一六日付でなした山林所得金額を金一九〇〇万円、所得税額を金三三三万三、〇〇〇円重加算税額を金九四万五、九〇〇円とする更正賦課決定処分のうち、所得金額一、三〇〇万円、所得税額一八七万四、〇〇〇重加算税五〇万八、二〇〇円を越える部分を取消す。

二、訴訟費用は原告の負担とする。

(被告)

「主文同旨」の判決。

第二、当事者双方の主張

(原告の請求原因)

一、原告は、昭和四二年八月一一日、訴外有限会社丸久佐久間商店に、その所有する杉、松、檜、などの立木を代金一、三〇〇万円で売渡す契約を締結した。

二、原告は、その後昭和四三年三月一二日、有限会社丸久佐久間商店代表者佐久間哲男らの指示により、右売買代金を金三〇〇万円として、右売買による所得の確定申告をしたところ、被告は原告に対し、昭和四四年六月一六日、右申告に対し、所得金額一、九〇〇万円、所得税額三三三万三、〇〇〇円、重加算税九四万五、九〇〇円とする更正賦課処分を決定した(以下本件更正処分という)。

三、そこで原告は、昭和四四年六月二〇日、被告に対し、所得金額三〇〇万円である旨の異議申立をなしたが、被告は同年九月一八日右申立を棄却するとの決定をしたので、更に同年一〇月一六日、東京国税局長に対し、所得金額一、三〇〇万円、所得税一八七万四、〇〇〇円である旨の審査請求をしたが、東京国税局長は昭和四五年四月七日、右請求を棄却した。

四、よって原告は、被告に対し、本件更正処分のうち所得金額一、三〇〇万円を超えて賦課した部分は、違法であるので右取得金額を超える部分について取消を求める。

(請求原因に対する被告の認否)

一、請求原因第一項の事実のうち、売買金額は否認し、その余の事実は認める。

二、同第二、三項の各事実のうち、佐久間哲男らの指示については不知、その余の事実はすべて認める。

(被告の主張-本件更正処分の適法性)

原告は、有限会社丸久佐久間商店に立木を代金一、九〇〇万円で売却し、右代金を全額一括して受領したものである。

したがって、右所得金額について、必要経費(五一二万円-所得金額に昭和四三年大蔵省告示第一一号に基づく概算経費率二六パーセントを乗じた金額および本件譲渡にかかる山林の面積二ヘクタールに右同告示第一二号に基づく植林費特別控除九万円を乗じた金額の合計額)および特別控除額(三〇万円-所得税法三二条四項の規定額)を減じた金額に所得税法に基づく税率を乗じて所得税額三三三万三、〇〇〇円を算出し、さらに国税通則法の規定によって重加算税額を九四万五、九〇〇円と算出したものであり、被告のなした本件更正処分は違方である。

(原告の反論)

本件山林の面積が二ヘクタールであることを含む必要経費および特別控除額の算出方法は認めるが、基本である代金額は一九〇〇万円ではなく、一、三〇〇万円である。

第三、証拠関係

(原告)

一、甲第一ないし第六号証、第七号証の一、二、第八号証を提出。

二、証人花田順正、同小島定雄、同近藤和雄、同佐久間哲男、同池田充、同山口文夫、同牧野久美子、同古川正輝の各証言ならびに原告本人尋問の結果を援用。

三、乙第五号証の一、二、第六号証、第九号証の成立は認め、その余の乙号各証(第七号証第八号証の一ないし三については原本の存在・成立についても)の成立は不知。

(被告)

一、乙第一ないし第四号証、第五号証の一、二、第六、第七号証、第八号証の一ないし三、第九号証を提出。

二、証人花田順正、同佐久間哲男、同小島定男および同藤田里見の各証言を援用。

三、甲第八号証の成立は不知、その余の甲号各証の成立はすべて認めた。

理由

一、原告が昭和四年八月二一日、有限会社丸久佐久間商店に山林を売却したこと、原告が右売買所得を金三〇〇万円として確定申告したところ、被告が原告の所得を一、九〇〇万円として本件更正処分をしたことおよび請求原因第三項のとおり原告は異議申立、審査請求をしたがいずれも棄却されたことは当事者間に争いがない。

二、そこで原告は被告の山林所得を一、九〇〇万円とした本件更正処分は違法である旨争うのでこれについて検討する。

1  成立に争いのない第一ないし第三号証、乙第九号証、証人近藤和夫の証言によって真正に成立したと認められる乙第三、第四号証、証人藤田里見の証言によって真正に成立したと認められる乙第七号証、同八号証の一ないし三、証人佐久間哲男、同小島定雄、同近藤和夫、同牧野久美子ならびに同池田充(但し、後記認定に反する部分を除く)の各証言および原告本人尋間の結果を総合すれば、次の事実を認めることができる。

(一)  昭和四二年四月ころから、材木商である有限会社丸久佐久間商店の代表者佐久間哲男は山林の所有者である原告との間で山林売買の商談を進め、同年八月初めころ、右両者の間で原告所有の山林の売買の話が、成立した。その売買代金は、山林を伐採して一二〇尺以上あれば二、〇〇〇万円、それに満たなければ一、九〇〇万円にすることに決定した。その後両者立合のうえ、伐採したところ一二〇尺なかったので売買代金は一、九〇〇万円に確定した。

(二)  ところで佐久間は手持資金がなかったので、取引先である木更津信用金庫湊支店に融資方を申込んだところ、同信用金庫はこれを承諾して、佐久間に右買受代金の最高額の二、〇〇〇万円を融資することにしたが、そのうち六〇〇万円は丸久佐久間商店名義で、一、四〇〇万円は佐久間哲男名義で借り受けることとなった。

(三)  昭和四二年八月一一日、佐久間哲男は原告に対する貯金勧誘の目的で同道することとなった右信用金庫湊支店の得意先係である小島定雄を伴って原告方を訪れ、代金一、九〇〇万円で契約を最終的に成立させたが、その際、原告の税金対策上、売買代金を三〇〇万円とする契約書および領収書を作成することとなり、小島に右書類を作成させ(甲第一、第二号証)、原告は佐久間に現金一、九〇〇万円をその場で渡した。その後、小島は原告に右売買代金を右信用金庫に預金するように勧誘し、原告も最初は断ったものの、結局は承諾し、右代金のうち一、〇〇〇万円を右信用金庫の無記名定期預金とすることとなった。

(四)  右売買について丸久佐久間商店においては経理上、右一、九〇〇万円を一たん買掛金勘定に記載し、会社名義で借受けた六〇〇万円については、同日借入金勘定に振替え、他方佐久間哲男名義で借受けた一、三〇〇万円(一〇〇万円は代金額が二、〇〇〇万円ではなく一、九〇〇万円ですんだため同日返還した。)については、原告に対する買掛金として計上しておき、同年九月六日、会社が新たに右信用金庫から一、三〇〇万円を借受け、右金員から同日五〇〇万円、同月八日四五〇万円同月一二日三五〇万円を右信用金庫に返済した。

2  右事実によれば、本件売買の代金は一、九〇〇万円であると認めることができる。原告は右認定事実を否定する主張をし、証拠を提出しているので次にこれを検討する。

(一)  証人池田充の証言および原告本人尋問の結果中には、売買代金が一、三〇〇万円である旨の供述があるが、右供述はそれを裏付ける書証が存在しないのに反して前記認定を裏付ける証人佐久間哲男および同小島定雄の各証言には、合理的な書証(前掲各乙号証-前記1(四)の認定のとおり合理性がある-)が存在しており、池田充証言および原告の供述は信用することができない。

(二)  佐久間哲男が木更津信用金庫の総代であることや、また小島定雄が木更津信用金庫退職後刑事事件に関係していたことが、成立に争いがない甲第七号証の一、二により認めうるとしても、かかることだけでただちに右の者の証言が信用できないとはいえない。

(三)  他に、原告主張と符合する証人古川正輝の証言があるが、古川は、本件山林売買契約前および契約後に、原告から右契約について話を聞いたにすぎず、本件契約の場に立合っていないのであり、本件契約について直接見聞したものではなく、原告の伝聞に過ぎない。したがって右証言も信用することはできない。

(四)  残金六〇〇万円の領収証が提出されていないが、このことも、これだけでは本件売買契約の経過から考えると、前記認定を覆えすに足りるものではない。

3  そうすると、売買代金額一、九〇〇万円を原告の所得として、原告に所得税三三三万三、〇〇〇円および重加算税九四万五、九〇〇円を賦課した本件更正処分は、本件山林面積が二ヘクタールであること山林所得の租税特別措置法の規定による必要経費特別控除の算定法は当事者間に争いがなく、当事者に、成立が争いのない乙第五号証の一、二および所得税法租税特別措置法、国税通則法の規定によって、適法と認めることができる。

三、よって、原告の請求は理由がないから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 渡辺桂二 裁判官 浅田潤一 裁判官 小松峻)

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